山は魅了する
女の誇りもかけて登頂

小倉董子

 ジリジリと照りつける太陽をまともに浴びながら、重いリュックを背に登る山道くらいつらいことはない。

 だが、谷間や尾根すじの冷たい風がほほをなでるとき、また小鳥のさえずりが山あいにひびくとき、そのつらさも肩の荷の重さもすっかり忘れてしまうから不思議である。こんなささいな喜びが、山に魅せられる1番大きな原因のようだ。

山と私─。

 思い出は数かぎりないが、昭和32年、早大赤道アフリカ遠征隊に参加、幸いにアフリカの最高峰であるキリマンジャロ登頂に成功することができた。

 日本の女性としては、はじめて海外の山に登ったことになったが、ヘミングウエイの著書で名高いキリマンジャロの雪は、それまでは物語の中の夢でしかなかったのに、それを現実に自分の足で踏みしめた感動はいまも忘れられない。

 戦後の女性はくつ下なみに強くなったといわれるが、女性の社会的地位はまだまだいろいろ問題をのこしている。

 それでアフリカに行く前には、「女だてらに何のためにいくのか」とお役人など、だいぶむずかしい顔をする人もあって一時は、参加すら不可能の事態に追いつめられたものだ。

 だからキリマンジャロの登頂は、山に登ったというだけでなく、私にとっては日本の女性を認めてもらったという記念すべき日ともなったようだ。

 1昨年、女だけのグループでニュージーランド遠征をしたときはこのお役人が私を覚えていてくれて、難なくパスした。これは登頂の喜びにも劣らない気持だった。

 山というものは、どんなにつらい目にあっも、下山すると、楽しい思い出しか残らないものだ。
 これからも私と山との縁はたち切れそうもない。
                    (登山家・旧姓後藤)