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山の先輩
小倉董子さんに思う
田部井淳子〔1939年生まれ。登山家。女性初のエベレスト登頂者〕
小倉さんの元から巣立った多くの人びとが、それぞれ山のリーダーとなり、輪が広がっていくのはうれしいことだ。小倉さんの人柄にほれこむ人が、今後もますます増えていくだろう。
私はまだ、自分の山登りの域を出ていないので、そんな小倉さんを尊敬し、まばゆい思いで見つめている。
彼女の著書のひとつである『女の山歩き 山登り』(山と渓谷社刊)の中で−
「仕事一途に独身を貫くのも、その人の生き方ですが、女と生まれたからには、男のできない体験をやってみるのも、人間として愉快なことではありませんか」という一節がある。
私もそう思う。結婚、出産、育児を通して自分の山登りが深まっていったように、私は思うのだ。家庭という枠があるから、むしろ私は安心して山に行けたのだろう。小倉さんという山の先輩の生き方が、お手本としてあったことも大きい。
今後ますます、オシャレ上手になり、すてきな山の仲間を増やし、自分の山域を広げていかれることだろう。それを楽しみにしつつ、私もまた自分の山を広げていきたい。
1990年8月
小倉董子著「山歩き讃歌」に掲載された文より抜粋
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