カナダ日記
―予期せぬ出来事―
紫蘭会顧問

小倉董子

7月5日(木)レイク・ルィーズにて

 巨岩連なるテン・ピークをあかず眺めながらのアイフル・レイクまでのトレッキングは、カナディアンロッキイの素晴らしさを満喫した山旅だった。優雅なホテルの部屋に戻り、今日一日の幸せをかみしめ、一風呂浴びようかと思っていると、広々とした部屋に、ひときわけたたましく電話のベルが鳴りひびいた。

 

 受話器をとると、緊張した井上氏の声が、私の耳に飛び込んできた。「困ったことになりました。ココツアーズの犬塚と話してください。」いったん電話は切れ、再びバンフの犬塚氏から電話が入る。時計の針は午後5時を少し回っている。 「ご用件は?!…」ただごとではない雰囲気。

 

 「あの…申し訳ありません。今すぐにでも飛んで行って、おわびをしたい気持ちでいっぱいです。…」 要約すると、政府機関のカナダ国立公園管理局から、今日になって、人数制限があるので、明6日のレイク・オハラへは、10名だけ、あとの21名は、3日後の9日にしろ、というのである。

 

 いくらお役所とはいえ、前日になって変更とは、納得がいかない。ひたすら申し訳ないを連発する犬塚氏に、今更不満をいってもどうなるものでもないことだけは、確かのようだ。

 

 2班に分かれて行動することへの不安。それにスケジュールが大きく狂ってしまうのだから、レイク・オハラは断念せざるを得ないだろう。明日の計画を早急に決めなければならない。

 

 現地で買い求めたガイドブックで調べ、計画の段階でも検討されたパラダイス・ヴァレイに決める。再び犬塚氏に連絡すると、「距離もあるし、谷沿いは景色もよくないし…」とあまり賛成しかねない様子だった。

 高年齢、しかも女性だけということに、不安を抱いているらしい。紫蘭会のメンバーの実績がわからない犬塚氏の心配はもっともと思ったが、決行することを伝えた。あとでわかったことだが、すべてのことで相当気をつかってくださったようで、まことに申し訳なかった。

 

 パラダイス・ヴァレイは、天候の激変にあったが、残雪をトラヴァースしたり、広大な岩の台地に出会ったり、湿地帯に咲く花をめでることもできた。樹林帯に積ったあられが、クリスマスツリーのように美しかったことも、思いがけない強烈な印象となった。