全山滝となる
ミルフォードトラックに
魅せられて
紫蘭会顧問
講 師
小倉董子

 世界の山々への挑戦を夢見ていた青春時代、アフリカのキリマンジャロ登頂後、次のステップとして、氷河のあるニュージーランド・アルプスをめざしたのが、1961年、海外渡航に制限があり、まだまだ、海外への脱出が難しいころだった。私たち女5人のメンバーは、バックアップしてくれる山岳会や大学もなかったため、日本のニュージーランド大使館に相談、その結果、日本文化を紹介するという條件で、ホーム・スティーを引き受けてもらえることになった。

 遠征隊という名称を急遽変更し、親善隊という隠れ蓑を着てのニュージーランド行だった。 3ヵ月半にも及ぶ、登山と親善の旅、山を登りたい一心の股旅だった。当時は「なぜ山を登るのに旅役者まで演じなければいけないの…」と不満もあったが、多くのニュージーランドの人々との出会いで、第二のふるさとを得た思いだった。
 山小屋とホーム・スティーの連続だった私たちが、唯一優雅で自由な休日を楽しんだのが、ミルフォード・サウンドだった。裕福そうなイギリス人やアメリカ人、そして年金生活者のニュージーランド人などの老夫婦が、マイターピークの夕焼けを見ながら、あのロビーで、食前酒を楽しんでいた。

 日本人が、自由に海外旅行ができるようになるのは、いつのことだろうか。ガイドブックをめくっていると「世界一美しい散歩道ミルフォードトラック」のタイトルが目に入った。白黒写真で、判然とはしないが、シダ類の生い繁った森の中を二人のハイカーが歩いている。いつ又ニュージーランドを訪れられるかわからないが、「散歩道」なら年を重ねても大丈夫に違いない。 「そうだ、必ず又来よう!!」 なぜか胸が熱くなるのを憶えたのだった。

 紫蘭会が海外トレッキングを計画するようになってからも何度か、このミルフォードトラックが、私の頭の中をよぎったものだ。だが、南半球、ちょうど北半球の日本の裏側に位置するニュージーランドだ。今でこそ、飛行時間は短縮、費用も比較的安くなったが…。実現したのは、1988年1月だった。

 最初訪れた時、貧しくて泊まれなかったハーミテージ・ロッジからクック山を眺めてみたい。トレーニングで登ったコースなら、みんなと一緒に歩けるだろう。そして最大の目的ミルフォードトラック…。ワクワクしながら計画を練ったものだ。
 「散歩道」とはいえ、雨が一日中降った時は、自然の猛威と厳しさを体験した。だが、その代償として、きり立った岩山が全山見事に変身するいく筋もの滝、荘厳なまでの自然の一大ドラマを見ることができた。

 27年ぶりに、私の夢はかなえられたのだった。「散歩道」とはいえ、やはり、大自然の厳しさ、やさしさなど、あらためて実感した山旅でもあった。

再びミルフォードトラックへ…

 1997年5月、日放ツーリストの太田さんと初めてお会いした。「女性のための山歩き講座、ニュージーランドミルフォードトラック」の講師依頼だった。私のニュージーランドへの思い入れを知ってのことと、早合点した私だったが、話しをしていると、まったく偶然ということがわかった。とはいえ、結果的に赤い糸ならぬグリーンの糸(?)で結ばれていた、としかいいようのない不思議な因縁を感じたのも事実だった。

 紫蘭会の海外トレッキングは、1994年9月の「モロッコ・アトラス山行」を最後に途切れていた。理由として、私の家庭の事情もあったが、これまで長い間つき合ってもらった朝日サンツアーズのツアーコンダクターに紫蘭会会員が不安を持っていることを感じとることができたからでもあった。何とかこの問題を解決し、復活しなければ、という私の思いもあった。
 それがタイミングよく、太田さんの企画が飛び込んできたのだった。それも「ミルフォードトラック」だ。 太田さんの若さと誠実さ、控えめな押しのよさが頼もしくうつった。

 正直、私の実年齢を考えると、一度体験しているところなら大丈夫だろう、ということも、お引き受けする動機にもなった。
 引き受けるための条件をいくつかお願いした。
1、紫蘭会会員を一般募集以前に優先的に受け入れてほしい。
2、準備会を最低2回はしたい。一般の方には、机上講座を行ない、山歩きの基本やチームワークの大切さを伝え、装備をきちんと整えてもらう。
3、経験や年齢は問わないが、持病または何らかの身体に故障のある人は、申し出てもらい、相談し、参加を決めたい。
4、ご夫婦なら男性参加も可とする。(紫蘭会初めてのこころみ)
5、「ミルフォードトラック」では、雨対策が重大なキイポイントであることをパンフレットに明示してほしい。

 初期の段階で、紫蘭会会員12名の申し込みがあったが、健康上の問題や家庭の事情で、〆切間近かには、5名が不参加になってしまい、あわてた。  結局、一般募集参加者がなかったため、私の友人、知人に声をかけ、ご夫妻1組を含め5名の参加者を得て、12名となった。
 定員20名に満たないため、ツアーコンダクターは、講師の私一人でどうだろうか、という相談もあったが、太田さんのお人柄を信頼して決定した企画なのだから、と無理に太田さんにお願いした、という裏事情を告白しておく。

 さて、準備会で、それなりの和も芽生えはじめて、成田を飛び立つことができた。
 第一日目のテ・アナウの準備会では、日本人スタッフのきめこまかな説明があり、前回のような人数のことでのトラブルもなく、何の不安もなくスタートできた。

 10年前と比べ、山小屋の設備が少しよくなったこと、コースが常に整備され当時なかったトイレが一部増えたこと、雨対策のつり橋が増設され、増水した時を考えて、木道やつり橋が高くなったこと、安全のための心づかいがいたるところに感じられ、天候さえよければ、まさに「世界一美しい散歩道」は、時を経ても健在だった。

 前回は、4泊5日のトレッキングの最終日、いちばん長い21.8Km行程の日、名物の雨にあった。ほとんど平坦な道だったが、それだけに道は時がたつほど水かさが増す。体力のない人ほど、つらい思いをしたものだ。
 今回は、どこで大雨にあうのだろう。不安と期待が交叉する。いつものことだが、兎さんチームと亀さんチームに分かれる。そして、トレッキングポール2本で地道に歩むGさんが後を追う。

 2日間の天気のよさが不気味だった。マッキノン峠越えの日が心配していた通り雨となった。あの素晴らしい景観が見られないとは…。内心ツイテないな、と思った。だが、あのきり立った岩山がせまる、幾すじもの滝は、薄墨色の中で、豪快さがやさしくさえ見えた。
 足元の水の流れも傾斜のおかげで、水かさが増していくという心配もなかった。意外な体験だった。マッキノンの湿地帯は、たっぷりと水を吸い込んだ平原のようだった。峠小屋での温かい飲み物のサービスは、濡れたからだだけでなく、心をも温めてくれた。

 安全対策の心づかいが、いたるところに準備されているからこそ老若男女、山歩きが好きな人であれば、誰でもが安心してトレッキングが楽しめるのだ。 それに加えて、40人という人数制限を貫いていることが、人と自然との共生を保っているのかもしれない。
 日本の山なら、そして紫蘭会山行なら「中止」があたりまえの悪條件だが、それぞれ、どんな思いで歩いていたのだろう。

 何はともあれ、雨のミルフォードトラックは、やはり魅力がいっぱいだった。またいつか、どのコースであの雄大なドラマが体験できるか。ワクワクする。何度も行って見たい。
 私の目に狂いはなかった。コンダクターの太田さんの心配りと頼もしさ、やさしさに感謝したい。メンバーの協力、そして唯一の男性参加の、ニックネーム「校長先生」の心づかいに、お疲れさま、そして、「ありがとう!!」を。
 リフレッシュして、現実の厳しさを元気で明るく克服、再びリフレッシュの山旅をご一緒しましょう。


ニュージーランド・トレッキング日程表
1998年1月19日(月)〜1998年1月28日(水)10日間

月・日
行  動  記  録
1/19(月) 曇り 21:15  定刻より20分遅れで成田空港発(N.Z.90便)
     機内泊
約11時間のフライト
1/20(火) 晴 (これよりN.Z.時間)
12:20 定刻より15分遅れでクライストチャーチ空港着
14:50 クライストチャーチ空港発(国内線N.Z.651便)
15:40 クイーンズタウン着
16:00 クイーンズタウン発(バス)
18:00 テ・アナウ着(テ・アナウ・トラヴェロッジ泊)
19:00 ミルフォードトラック事務所主催カクテルパーティー
20:00 夕食

1/21(水) 晴

歩程 1.2キロ

6:30 起床
8:30 ミルフォードトラック事務所主催のガイダンス
     及びトレッキングのチェックイン
13:00 テ・アナウ発(バス)
13:30 テ・アナウ・ダウンズ着
14:00 テ・アナウ・ダウンズ発(船)
15:20 グレイドワース着(1.2キロのトレッキング)
15:50 グレイドハウス着
16:15 グレイドハウス発〜グレイドバーンへトレッキング
17:30 グレイドハウス着(泊)
18:00 夕食
19:45 ミーティング(自己紹介、歌合戦、ゲーム大会等)
1/22(木) 晴

歩程 16.1キロ

(ウサギさん組)
6:45 起床
8:45 グレイドハウス発
12:55 フィレレ滝小屋着(昼食)
13:15 フィレレ滝小屋発
16:00 ポンポローナ小屋着(泊)
17:45 夕食

(カメさん組)
6:45 起床
8:50 グレイドハウス発
13:15 フィレレ滝小屋着(昼食)
14:00 フィレレ滝小屋発
16:35 ポンポローナ小屋着(泊)
17:45 夕食

1/23(金) 雨

歩程 14.9キロ

(ウサギさん組)
6:25 起床
7:50 ポンポローナ小屋発
    マッキンノン峠メモリアル通過
    マッキンノン峠小屋着(昼食)
12:45 マッキンノン峠小屋発
15:20 クィンティン小屋着(泊)
18:40 食事

(カメさん組)
6:25 起床
8:50 ポンポローナ小屋発
12:15 マッキンノン峠メモリアル通過
12:45 マッキンノン峠小屋着(昼食)
     マッキンノン峠小屋発
(16:30〜17:20道確認のためロスタイム)
18:00 クィンティン小屋着(泊)
18:40 食事

1/24(土)
小雨 のち曇り

歩程 21.8キロ

(ウサギさん組)
6:25 起床
7:30 クィンティン小屋発
10:10 ボートシェッド小屋着(お茶)
10:35 ボートシェッド小屋発
     ジャイアントゲート着(昼食)
13:45 ジャイアントゲート発
15:15 サンドフライポイント着
16:11 サンドフライポイント発(船)
16:25 ミルフォードサウンド着
16:30 ミルフォードサウンド発(バス)
16:40 マイターピークロッジ着(泊)
18:15 ミルフォードトラック完歩証授与式
      カクテルパーティー
18:45 食事

(カメさん組)
6:25 起床
7:30 クィンティン小屋発
10:37 ボートシェッド小屋着(お茶)
11:00 ボートシェッド小屋発
13:45 ジャイアントゲート着(昼食)
14:05 ジャイアントゲート発
15:35 サンドフライポイント着
(以下、ウサギさん組と同じ)

1/25(日)
曇り のち晴
7:00 起床
8:30 ミルフォードクルージング(2時間)
10:25 マイターピークロッジ発(バス)
13:25 テ・アナウ・トラヴェロッジ着(昼食)
     自由行動
18:00 中華料理店「明園酒家」で夕食
20:15 テ・アナウ洞窟へ土蛍見学(船)
23:00 テ・アナウ・トラヴェロッジ着(泊)
1/26(月)
曇り のち晴
7:00 起床
11:00 テ・アナウ・トラヴェロッジ発(バス)
11:20 テ・アナウ空港着
11:35 テ・アナウ空港発(マウントクック航空)
11:55 クイーンズタウン空港着
12:45 クイーンズタウン空港発
13:45 クライストチャーチ空港着
13:55 クライストチャーチ空港発
     (バス・途中車窓から市内見物)
14:20 ノアズホテル着
     自由行動
18:40 ノアズホテル発(バス)
19:00 レストラン「サイン・オブ・タカヘ」で夕食
21:25 ノアズホテル着(泊)
1/27(火) オプショナルツアー
@ 7:15 マウント・クックツアー組 8名出発
A 8:15 トランスアルパインツアー組 5名出発
B 終日自由行動 1名
19:05 ノアズホテル発(バス・ゴンドラにてレストランの
     あるマウントカベンディッシュ山頂へ)
19:30 レストラン「モンテベローズ」で夕食
22:30 ノアズホテル着(泊)
1/28(水) 晴 6:00 起床
7:30 ノアズホテル発(バス)
8:00 クライストチャーチ空港着
11:00 定刻より1時間20分遅れで
      クライストチャーチ空港発 (N.Z.90便)
12:20 オークランド空港着
13:05 定刻より35分遅れで
      オークランド空港発 (N.Z.33便)
約10時間のフライト
(これより日本時間)
19:17 成田空港着、解散